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【書評】39歳で太宰治もショパンも死んだ / 山田風太郎『人間臨終図鑑(上)』

書評

 

 

[この本ってどんな本?] 

世界中のありとあらゆる有名人が、何歳で死んだか、死に際はどうであったか、解説されている本。

若くして死んだ人間から順番に書いてあります。

 

[どんな人におすすめ?]

・歴史が好きで、世界史と日本史の時代感を比較したい人
・人間の最期に興味があるエンディング系の研究調査がしたい人
・山田風太郎のエッセイのとっかかりが欲しい人

 

[山田風太郎ってどんな人?]

太平洋戦争後、日本を代表する作家。ジャンルは、大衆小説・娯楽時代小説。


たぶん20代・30代の人のなかには、マンガ『バジリスク 〜甲賀忍法帖〜』を見たことがある人もいるだろう。それの原作者です。(ときどきコンビニに置いてある『柳生十兵衛死す』も山田風太郎が原作)

 

 

1958年に『バジリスク 〜甲賀忍法帖〜』のストーリー展開が確立されていると考えると、いまのラノベやバトルものに与えている影響ってすごすぎる…。

 

エロ・グロ・ナンセンスはもとより「どうやって思いついたの?」となるくらいの奇想天外な発想で、忍法帳シリーズも、もちろんめちゃくちゃおもしろい。でも、エッセイのほうが個人的には好き。

 

[いちばんの見どころは?] 

知っている人の最期が読める。それがいちばんのポイントだと思います。

 

例えば、太宰はショパンと同じ39歳で死んでいる。

 

今回紹介する上巻では、芸術家・犯罪者の臨終が多く書かれている。


小説家の太宰も音楽家のショパンも、最期がものすごい幸せに見えない。「うっ」と途中でなりながら読むこと請け合い。太宰が少なく見積もっても、4回自殺未遂してるとは知らなかった。

 

時代感覚の比較も楽しい。

 

ショパンが死んだ同年に、アメリカではエドガー・アラン・ポーが死んでいたり、日本では葛飾北斎が死んでいたり。(1849年)

 

また、チェコのプラハでフランツ・カフカが死んだ年には、レーニンがロシアで亡くなっている。(1924年)

 

カフカは33歳で『変身』を書いた天才だ。しかし翌年には喀血し、結核と診断されている。サナトリウムでの治療もふるわず、最後は41歳で彼はこの世を去る。

 

死後、机の引き出しに残された手紙にはこう書かれていた。

 

僕の最後の願いだ。僕の遺稿の全部、日記、原稿、手紙のたぐいは、一つ残らず、中身を読まずに焼却してくれたまえ

 

僕の書いたものの中で、まず一応認めてもいいのは、すでに書物になった『死刑宣告』、『火夫』、『変身』、『流刑地にて』、『村医者』、『断食行者』だけである。それだけを一応認めるというのは、それが新しく重版され、明日の人々に読まれたいと願うのでは決してない。そんなものがすっかり無くなってしまえばいちばんありがたいのだ。ただ、とにかく一度出版されたものだから、それを持っていたいという人々が所持しているものまで、禁止しようとはしないだけのことだ

 

さすが、カフカ。アウトサイダー感を感じさせるというか、ヘンリー・ダーガーに先駆けてこの遺書が残っている感じがあります。

 

[最後に] 

私にとって山田風太郎は教養を身につけたいときに頼りになる作家だ。

 

彼のエッセイを読み始めるようになったのは、『風眼抄』が始まりだ。『自分用の年表』というところで「史実に沿って年表を整理していくと、夏目漱石がイギリス留学していたときに、ロンドンではシャーロック・ホームズが活躍していたことになる」と読んだときからになる。

 

娯楽時代小説の名手であった理由でもあるのだろうけど、ここまで調べ上げて、読んで楽しい本にもっていく力にはただ驚かされる。

 

山田風太郎が亡くなったのは、師匠の江戸川乱歩の命日だそうだ。『人間臨終図鑑』の著者にして、そんな最期を迎えるとは偶然には思えない何かを感じさせる。